男性着物文化の危機 -滅びゆく着物文化を感じて-
このウサコッツ飼育日記で着物をはじめて取り上げたのは、2019年11月の「【男の着物】 普段着に着物を着たい -中年男性が挑戦してみた初の着物-」という記事です。今から4年以上前ですね。この記事を書いたころには、初心者向けにまだ既製品の着物が存在し、反物も展示会などの行くと予算はありますが、自分が好きな生地を選べるような状態でした。
しかし2024年の初売りになじみの呉服屋に行くと、遂に私の好みの反物が無くなりました。
私は派手好きなので、伝統柄とか地味な色が嫌いで、着物は派手目なものを揃えています。
それが遂に不可能になったのです。
そこで今回は男性着物がどのような状態に置かれているのかを考えてみたいと思います。
着物文化の未来
まず最初に2021年のNTTのデータですが、 呉服店の現象に歯止めがかからない状況であることが見て取れるグラフです。元記事では呉服他の減少ペースに対して「2013年から2019年のコロナ禍以前の状況としては、毎年約600件のペースで呉服店の登録数が減少していました。2020年のコロナウイルス感染拡大が発生後は、呉服店の登録件数は10,000件を割り、同じペースで現在も減少が続いています。」というようなコメントがついていました。
まあいつかは減少ペースが鈍化するとは思いますが、単純計算すると15年で呉服屋が消滅するペースです。
着物への支出の変化について
少し古いですが、2018年の内閣府の調査データがありました。 まずは着物を購入する場合の1世帯当たりの支出額です。劇的に減っていますね。2008年が4,546円だったのが、2018年には2,094円まで減少しています。次に着物のレンタル市場の推移です。これを見ると面白いことに、レンタル市場はそれほど変化はありません。むしろ増えています。
そして購入・レンタルしている世代です。40~60歳が圧倒的に多いです。ただこれ、6年前のデータなので、現在はこのグラフが6年分後ろにずれていると思います。若い人が着物着ているのをまず見たことないですからね。
そうなると、今は50~65歳くらいが一番着物を着ていると思われ、ちょうど私の世代が近いと思われます。
着物人口はどんな感じ
着物人口は推移のデータは拾えませんでしたが、最近の数値は拾えました。複数のアンケート結果の平均を基にした推定値ですが、日本における着物を着る人口は約130万人と推定されています。このうち男性の着物人口は約12万5,000人、女性は約118万人となっており、全体の男女比は大体1:9です。
着物市場から推定する支出額
男性のみに特化したデータはありませんが、最新の統計では年間の着物市場の規模は約2,200億円とされています。これを着物人口全体で割ると、1人あたりの年間支出は約16万8,000円となります。これは新成人の振袖着用やレンタルを含む数字です。ここまでのデータから想定される未来
呉服屋の減少はやはり産業としての着物が成り立たなくなってきているという表れかと思います。以前の日記でも書きましたが、呉服は戦後に着物人口の減少を客単価を上げることで吸収しようと試み、色々な着物のしきたりを着物教室を通して浸透させました。
このことが今の着物業界の衰退を招いていると私は思います。日本が右肩上がりの成長期にあるときはこの戦略で良かったんでしょうが、日本は中流家庭が絶滅の危機にあり、二極化が進んでいます。
そしてこの二極化は金持ちよりも貧乏人の増加を招いています。
着物への支出を着物人口で割った1人あたりの年間支出、約16万8,000円を今の日本人は高いと感じるのではないでしょうか?理由は色々あるとは思いますが、この4年ちょっと着物を普段着ていて思ったのは、
「金額が高い割に着ていくところがない」
これに尽きるのではないでしょうか?
皆さん、着物着ていて焼肉いけますか?匂いついてもファブリーズなんか絹の着物にはかけられません。エビチリやラーメン食べられますか?汁飛びますよ。シミになりますよ。
ゴミ捨ていけますか?ペットと遊べますか?スーパーに買い物に行けますか?
そんなこと考えていると本当に着れないんです。私は工夫してきていますけど、普通の着物ユーザーはこういった場面ではあまり着ないそうです。
私はスーパーも着物でいくし、ゴミ捨ても行きます、掃除もします。
さすがに洗車はしませんけどね。
そうなると、「高いけど見て楽しむ鑑賞用の服」になりがちなんですよね。これにシルクなら最低20万円くらいはかかります。既製品で安いデニム生地の着物でも2万円はします。これを月に1回着るか着ないかわからないものにお金を払える余裕がある人は減ってきているんではないでしょうか?
着物文化が持ち直すには?
先日初売りで呉服屋の主人とお話した時には、やはり母数を増やさないと反物を作ってくれとも言いにくいし、採算が取れないので作ってくれないと話しておられました。でも年齢層が下がるにつれ、今の若い人は服への関心は薄れていますし、ファストファッションが流行っている現代において、今のままの客単価を維持しつつ着物文化は廃れさせたくないというのはまず難しいと思います。
私が考えるに、こういった場合、新規の需要を掘り起こすためにはエントリーモデルが必要かと思います。洋服と同じで、単価を思い切って下げた既製品を展開するんですね。着物版ファストファッションです。
とはいえ、これも多分無理だとは思っています。今の着物を主に着ている年齢層はバブルの残り香に浸って生きてきた世代なので、こういった着物文化の権威の 下落を嫌うかもしれません。しかし、着物文化の存続と普及を望むならば、時代と共に変化する勇気が必要です。私たちは、着物を身近な存在にし、新しい世代に受け入れられるようなアプローチを模索する必要があります。
例えば、着物をカジュアルなファッションアイテムとして再定義し、日常生活で気軽に着用できるスタイルを提案するのです。また、着物のデザインや素材を現代風にアレンジし、若い世代が興味を持ちやすいようなラインナップを展開することも一つの方法です。
今回の記事が、着物愛好家の皆さんにとって、少しでも着物を身近に感じ、日常に取り入れるきっかけになれば幸いです。これからも、着物の多様な魅力を探求し、共有していきたいと思います。